2020年11月24日(火)発刊の日本経済新聞に弊社についての記事が取り上げられました。

2020-11-24

梅⽥のビルに⾼速道が「貫通」 開発競合、窮余の共存-とことん調査隊

 先⽇⾞を運転していたところ、⼤阪には物珍しい建物があることに気がついた。阪神⾼速道路の梅⽥出⼝の近くにある円形の建物は、なんと⾼速道路が貫通している。「笑いの街、⼤阪」といえどやりすぎではないか。建設に⾄った経緯を調べてみた。
 舞台はJR⼤阪駅から⻄に歩いて10分ほどの「TKPゲートタワービル」(⼤阪市)。貸会議室⼤⼿ティーケーピー(TKP)が管理する16階建てビルで34の会議室がある。 近くから⾒上げると信じられない光景が⾶び込む。ビルの中腹を⽩いガードレールで覆われた道路が突き抜ける。下から数えてみると、5〜7階部分のようだ。エレベーターホールの案内板には「阪神⾼速道路」とあった。エレベーターで上がろうとしたが、5〜7階のボタンはなく、とまることができなかった。
 TKP関⻄⽀店の男性社員は「揺れや騒⾳は感じない。会議室の利⽤者からの苦情もない」と話す。⾼速道路はビルの外側にある橋脚で⽀えられ、構造的に完全に分離している。建設当時、最も厚い窓ガラスを使うなどして揺れや騒⾳を抑えている。

 この道路の正体は阪神⾼速11号池⽥線。⼤阪府北部と⼤阪市内を結び、⼤阪国際(伊丹)空港との往来などに⽋かせない路線だ。どうしてこのような奇妙な建設にいたったのだろうか。阪神⾼速道路に聞いてみた。梅⽥周辺の交通渋滞を緩和するために新たな出⼝を設置する必要があり、1984年に道路の整備計画を作成した。た だ「計画したルート上にはビル建て替えを計画する地権者がいた。代替地もなく、協⼒する必要があった」という。86年から⽤地の取得交渉を始めた。
 地権者でLPガス販売、末澤産業(⼤阪市)の末澤市⼦社⻑によると、交渉に当たったのは先代社⻑の⽗親だ。「詳しい経緯は亡き⽗のみぞ知る」としつつ、「もともとは2階建ての⼩さなオフィスだった。好景気に合わせてビル計画ができたが、道路計画と重なってしまった」という。
 好景気に沸いた80年代は、都市部で地権者の開発計画と道路計画が重なる事態が多発した。⽤地の収⽤費⽤が多額に上った。当時は道路の上下に建物を建設することが認められず、⼯事が進まなかった。
 転機は89年。制度改正が待望され国は道路法などを改正し、「⽴体道路制度」をつくった。道路空間での建設や賃借権の設定が可能になった。阪神⾼速道路は地権者と法改正後の89年末に合意。ビルは92年に竣⼯し、道路とビルが共存する⽴体道路制度の第1号となった。
 特殊な構造で建設コストもかさみそうだが、実は割安だ。ビルの敷地全体を買収する必要がないためだ。地権者も移転せずにすむ。
 ただ、⼯事には苦労したという。阪神⾼速道路の当時の設計担当者は「ビルとの調和を重視し、エントランス近くの橋脚にはビルの壁⾯タイルと似た⾊の化粧板を施した。通常の道路⽤の塗料では⾊が合わず、⾃動⾞の塗料を取り寄せてやっと⾒つけられた」と話す。橋桁の化粧板も丸みを帯びた形状にしたという。保守作業も協⼒が不可⽋だ。建物に潜り込む区間の点検は作業員がビルを通ってたどり着けるようになっている。

 国⼟交通省によると、⽴体道路制度を使った建造物は、⻁ノ⾨ヒルズ(東京・港)など全国的に増えつつある。「ビルを道路が貫通する形は珍しい」という。
 最後に地権者の末澤社⻑にビルの今後について尋ねてみた。「完成イメージ図を⽗が持ち帰ってきたときは驚いたが、今や⼤阪のランドマーク。強い耐震性を備えた設計にしているので、できるかぎり⻑く残していきたい」とほほ笑んだ。