2020年7月14日(火)発刊の日本経済新聞 地方経済面 中部に弊社についての記事が取り上げられました。

2020-07-14

異変不動産市場(上)名古屋、一等地でも空室―築浅オフィス半年決まらず(新型コロナ中部の衝撃)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、中部の不動産市場が揺れている。オフィスや住宅の都心回帰を背景に、名古屋を中心に愛知の路線価は8年連続で上がってきたが、ここにきて一等地のオフィスでも空室が見え始めた。潮目は変わったのか――。記者は街に出た。
 異変は名古屋駅にほど近い再開発地域「ささしまライブ」で起きた。旧貨物駅の跡地に商業施設やテレビ局、大学が集積する名古屋屈指の人気エリアだが、昨年末から高層複合ビル「グローバルゲート」は23階の一部と24~25階のオフィスフロアすべてが空室のまま。本社として間借りしていたユニー(愛知県稲沢市)が退去し、数カ月を経ても後釜の入居者が決まらない。
 グローバルゲートのように最新のインフラ、好立地、まとまったスペースの三条件がそろえば「以前はすぐに埋まったのだが……」と、不動産関係者はこぼす。今や内見さえない。「コロナの感染拡大がオフィス需要期の春に重なった不運もあった」。テナント仲介大手、三鬼商事名古屋支店の川口真弥支店長はこう分析する。
 潮目の変化は統計データに表れている。コロナ禍前の1月時点でJR名古屋駅前の路線価(国税庁調べ)は、1平方メートルあたり1248万円と1993年(1500万円)以来の高値を付けた。相続税などの算定基準となり、金融機関の担保評価にも使われる路線価は、愛知全体で8年連続で上昇した。その半面、よりリアルタイムに不動産の実需を映すオフィス市況は相前後してピークアウトの兆しがある。
 名古屋市のビジネス街では、6月の平均オフィス賃料が1万1853円(1坪=3・3平方メートルあたり)と前月から3円下がった。小幅とはいえ、下落は1年5カ月ぶり。
 名駅地区や栄地区などビジネス街のオフィス空室率(三鬼商事調べ)は、1月の1・91%を底にほぼ一貫して上昇し、6月は2・83%を付けた。1年7カ月ぶりの高水準だ。空室率が5%を超えると、不況入りのサインとされる。直近はまだのりしろがあるものの、コロナの感染第2波が懸念されるなか、テナントの物色意欲は細りがちだ。
 事務機器・用品を扱うオフィスバスターズ(東京・中央)の中部支社では、撤退などに伴うオフィス家具の買い取り依頼が全体の8割を占めるようになった。「IT(情報技術)企業などを中心に依頼は増えていくだろう」(斉田淳生支社長)。名古屋市に拠点を置くコールセンター運営会社はコロナ前に計画していた増床計画を白紙に戻した。オフィス需要の減退を裏付ける。
 08年のリーマン・ショック後、空室率が危機前の水準に戻るまでに6~7年かかった。中小企業向けの融資や、自動車生産の落ち込みが当時を上回るなど、景気の谷はリーマン直後より深まる様相を呈している。先行きは予断を許さない。

■強気のビル新築 相次ぐ
総延べ床面積 大阪の半分以下
 需要が途切れ始めた中でも、強気のビル新築は止まらない。名古屋ならではの不動産事情には、いったん需給ギャップが広がると、賃料の下落が地域全体の価値まで損ねる「負の共振」のリスクが潜む。
 名古屋駅前では2021年、ミッドランドスクエアの隣接地に三井不動産が名古屋三井ビルディング北館を竣工する。地上20階建て、延べ床面積3万平方メートル弱の大型オフィスビルになる。栄地区は200メートル級の高層ビルが建ち、昭和の面影を残す光景が一変する見込みだ。22年にはNTT都市開発が栄地区のランドマーク、名古屋テレビ塔近くに20階建てのアーバンネット名古屋ネクスタビルをオープンする。
 名古屋のオフィス開発が勢いづいたのは15年から。名駅地区に大名古屋ビルヂングとJPタワー名古屋が竣工。17年にはJRゲートタワーとグローバルゲートが開業した。それでも名古屋は経済規模に対し「オフィスが少ない」とされてきた。
 三鬼商事によると、名古屋ではビジネス街のオフィスの総延べ床面積が6月時点で520万平方メートルと、東京の1割程度。大阪と比べても半分以下だ。リニア中央新幹線の27年開業計画も追い風となり、開発業者が競い合うように供給してきたオフィスビルが出そろうのはこれから。一方の需要は景気の後退局面だけでなく、コロナ禍で働き方やオフィスのあり方まで様変わりしている。
 コロナ禍前の昨年末ごろ、名駅地区と伏見地区の中間、納屋橋近くの中小オフィスビルが50億円弱で売りに出された。現オーナーが数年前に買った値段は15億円程度とされる。短期間で3倍以上に跳ねた計算だ。それからわずか半年足らず。コロナ禍は、バブルのような名古屋のオフィス市場に冷や水を浴びせた。

■広がるリモートワーク
需要下押しの可能性
 新型コロナウイルスの感染拡大を契機に出社前提の働き方は変わり、リモートワークが広がった。オフィスの使い方の変化は今後の需要動向に大きく影響しそうだ。
 大名古屋ビルヂングの30~32階に本社を置くエイチームは、感染防止のためにゲーム開発部門などを除く全社員を対象にテレワークを実施し、現在も継続している。本社で働く約600人の従業員の8割は在宅勤務だ。
 アイカ工業はJPタワーの本社部門の約50人が月1度の在宅勤務を実施している。中部電力なども引き続きテレワークを推奨する。今のところオフィスを撤退したり、縮小したりする動きは限られるが、働き方の変化がオフィス需要を下押しする可能性はある。
 一方、3密(密閉、密集、密接)を避けようと、サテライトオフィスやシェアオフィスの需要は伸びている。
 「売り上げはコロナ前を上回るペースだ」。全国で貸会議室を運営するティーケーピー(TKP)の河野貴輝社長はこう話す。大会議室を使うセミナーなどの利用は減ったが、会議室をサテライトオフィスなどとして利用するケースが増えているという。名古屋の貸会議室の稼働率も高水準といい、ビジネス機会を広げている。


♦日本経済新聞 WEB
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61379540Q0A710C2L91000/